モデル:m27675241365-MERC-n1ujiwxu
通常価格24960.0000円 (税込)
「はあ……」学園からの帰り道を辿る、王族専用の豪奢な馬車の中。柔らかなソファーに沈み込みながら。「これで一件落着……なんて簡単なことではない……むしろここから、と言ったところ……」 この国の元王太子レオナルドが、現役の王太子だった頃に多大なる迷惑を掛けてしまったと言われている少女、シャリーナ・クレイディアへの謝罪の為。ロランドの婚約者候補——ダリア・ガーデンの設立と人選には、いくつもの障害があった。 「それにしても、あの娘は本当に癪に障る……私の息子の嫁という最上の名誉を与えてやるというのにあのような態度……あんな娘、本当ならこちらから願い下げだというのに」 しかし、今はそうは言ってられない退っ引きならない事情があった。 それらを跳ね除け、ロランドの次期国王としての立場を固めるためには、薄れてしまった貴族達からの信頼、関心を早急に取り戻す必要がある。 「嘆いている場合ではあるまい。この苦労もこの国を思えばこそ……これからは、王妃たる私が導いていかなくては……」 そう己に言い聞かせ、ユリシアは馬車の中でキリッと顔を引き締めた。 ◇◇◇ 「色が悪い。入れ直しなさい」 「はい。申し訳ございません」 口を付けることなく捨てられるそれは鮮やかな真紅であり、文句をつけられる点など何一つ無かったが、そんなことを正直に言うほどそのベテラン侍女は愚かではない。 「遅い……!一体何をしてるというの」 ユリシアの恨み言の向かう先は侍女でも紅茶でもなく、王都から遠く離れたクレイディア領の当主である。 「此方からの書簡はもう、とっくに届いているはず……」 シャリーナが大人しくレオナルドの愛妾にでも収まっていれば、今頃クレイディア家は決して細くない王家とのパイプを手に入れられるはずだったのだ。 一度逃したチャンスを此方からもう一度与えてやると言えば、彼等はさぞ王妃のお慈悲に感謝し、今度こそそれを逃してはならぬと、不甲斐ない娘を叱咤激励するはず。 あの家は数時間で王都と領を往復出来る、特殊な郵便方法を有しているのだ。本来ならとっくに届いていてもおかしくないのに。 「裏があるかもしれない、などと思われている……か」 僅かに眉根を寄せながら、ポツリと呟く。 もしクレイディア家当主オーウェンとその妻が、娘であるシャリーナと第一王子とのゴタゴタで王家の恨みを買っているに違いないと未だ怯えているとしたら。 「馬鹿馬鹿しい。そんなこと、杞憂でしかなかろうに」 ユリシアは己のことを『国のために常に冷静に物事を考え合理的な判断を下せる有能な女』だと自負しているのだ。私情に流され復讐に走る馬鹿親などと見くびられては困る。 こめかみを抑えつつ溜息を吐きながら。ユリシアは徐ろに席を立ち、ベルベットのカーテンに囲われた窓に近づいた。 「あら?あれは……」 漆黒の本体に、真紅で描いた王家の紋章。黒馬に引かれたその馬車は間違いなくこの国の現王太子であるロランドのもの。 「ああ、ロランド。良かった。あんなに元気になって……」 しかしそんなロランドの後ろを、少し離れて俯きながら歩くストロベリーブロンドの少女が目に入った途端、綻ばせていた顔を顰める。 シャリーナ・クレイディア。ユリシアを悩ませる様々な問題、騒動のそもそもの原因である憎たらしい少女。 不意に、ユリシアの脳裏に、シャリーナと貴賓室で交わした最後の会話が蘇った。 ピシャリと跳ね除け聞かなかったことにしてやれば、全てに絶望したような感情の抜け落ちた顔で崩れ落ちた。 「ああ、嫌なものを思い出してしまったわ。本当になんて白々しいこと」 押さえ込んでいた静かなる怒りがユリシアの胸の内に蘇り、ギリ、と唇を噛み締めたところで。 「失礼致します」 控えめなノックと共に、先程突き返した紅茶を淹れ直した侍女の声が聞こえた。 「ふぅ……やはり紅茶は、ゾフィーネル産のものに限る」 一口含んだ紅茶をゆっくりと舌で転がし、コクリと飲み込む。 侍女を下がらせ、ようやく一人きりの穏やかなティータイムにありついたユリシアは、ほぅと息をついて満足げに微笑み……しかしすぐに、悲しげに眉を顰めた。 「レオナルド……」 呟くのは、現在離宮に幽閉されているこの国の元第一王子、ユリシアの一番目の息子の名前。 無理もない。初恋の女性が、あっさりと自分を裏切り捨て去るところをまざまざと見せつけられたのだ。心に負わされた傷の大きさはどれほどのものだっただろう。 数ヶ月前の外遊中に届けられた報告書や、帰国後早々に貴族達によって告げられた事のあらましを、ユリシアは決して鵜呑みにしてはいなかった。 「あの、半端に欲深く小賢しい小娘のせいで……っ!」 ユリシアが考える真実のストーリーはこうだ。 そしてシャリーナも、最初は田舎の貧乏男爵といううだつの上がらない恋人から、一国の王子様へあっさりと乗り換えようとしたに違いない。 初恋の相手の言うことを鵜呑みにしてしまったレオナルドは、正義の怒りに燃え愛しい彼女に害をなす悪漢を成敗するために立ち上がってしまう。 保身のためにいち早く冷静になったあの女は、レオナルドからまた元恋人へと乗り換えるための算段を立てる。 まだほのかに湯気を立てる紅茶のカップを持つユリシアの手に、力が籠る。 「許して、レオナルド……」 国のためなら、時には我が子への情さえも切り捨て、冷静に合理的な判断を下さなくてはならない。 ストレス回が続いてすみません…( ̄▽ ̄;) よければ箸休めにでも別作の陰キャヒーローが活躍する話も読んでもらえたら嬉しいです。 『総愛されヒロインは呪術士の手を取る』 https://ncode.syosetu.com/n9254gn/ 『夜明けの貴公子は行き遅れの太陽に恋焦がれる』 https://ncode.syosetu.com/n0320ge/
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